慌てないで配偶者サンバ

本当に映画しか楽しみがないまま1年が過ぎた。本当にアホな政治が続く中で映画というのは政治家が介入できない数少ない領域なんじゃないかと思う。

 

○ここ数ヶ月で映画館でみて記憶に残ったもの

ドントウォーリーダーリン
…ワーナーなんだけどA24をコンセプトや美術等ばりばり意識しているのが興味深くみてみた。監督は女優がやっていて、前作のブックスマートはプロムものという紋切り型の映画なのに性欲が強い女ヲタ2人のパーティデビューという切り口でめちゃめちゃ新鮮で感動したし見てみたんだけど、すごい。ディストピアものには食傷気味だったけれど、新しいと思ったのは、終始仮の世界でどうよく生きるか、振る舞うかという話に修練していたところ。通常ディストピアものというのは、本当の世界が種明かしされた後は、どう二重生活に折り合いをつけるかというのが定石であることは自明だったと思うが、本作は終始そのような観点はなく、ハリボテの世界のまま物語がドライブする、その軽薄さがキネマトグラフ調の幻覚や俯瞰ショットといったA24的雰囲気をなぞっただけの安易な魅せ方とシンクロして逆に小気味良い。世間は明らかにメタバース慣れしているっていうことなんじゃないか。

 

ゲットクレイジー
…ロックンロールハイスクールの監督が撮った、フィルモア劇場はきっとこうだったんだろうという年末の催しの顛末をステージと舞台裏で同時進行するコメディ。これまでの映画のなかで一番感動した。設定はかなり甘くて、ステージのラインナップはBBキングみたいなブルースマン、ジェッツみたいなギャルバンとそのペットのGGアレン風パンクス、デビッドボウイ風のニューロマ男がゲンズブール風のバラードも歌う、みたいな、なんでもござれ的な出し物があるんだけど、びっくりしたのがみなブルースマンのカバーを個性を出しながらして互いにリスペクトして年末への高揚感を加速させていくという展開で、特にGGアレン風のカバーがリフでためてバイテンしてモッシュというアレンジが秀逸だった。泣いちゃった
とりはボブディランのものまねをしているルーリード。このオチでメタ的なしかけが用意されていて、それまでの陳腐な出し物にリアリティがもたらされる仕掛けでしびれた。みんな絶対にみてほしい
年末にロックンロールハイスクールも通しでは所見。ネットでいいシーンはみてしまったから驚きはせず前半はロジャーコーマンのノリでしかるべくダレでいたが、ラモーンズの出演が尊いラモーンズが素晴らしいのは、その気になれば誰でもラモーンズのようになれるところというか、とにかく最大公約数的なポップさがあるところだ。革ジャンのガリガリというマイノリティだからこそできる恥ずかしいほどのキッチュ

 

LAMB
…こちらは一方で本家A24の悪いところが全部出ている。クソすぎる

 

あのこと
…中絶が違法のときに孕んだフランスJDの話。日経の映画レビューで星5だから見てみたけどひどかった。確かにショックなことだと思うし大変な目に遭った女の人はたくさんいるだろうが、だからといって2時間ストレートにその不安を共有させるだけの映画に何の意味があるんだ。批判しづらい映画とは思うが、どうなんだと思う。ちょっと前のムーンライトという映画を思い出した。なんかの賞をとったしけっこう褒められていたけれど、めちゃめちゃ陳腐で昼ドラもいいとこの物語で、これが異性愛だったら絶対に箸にも棒にもかからないんじゃないかとゾッとした。逆差別とは思わないが、ゲタはかせすぎなんじゃないか。しかもムーンライトは明確なカラミ描写は浜辺でのテコキだけで、しっかりアナルセックスに向き合ってくれればせめてまだよかったと思う。

 

月はどっちに出ている
崔洋一の映画はどれもロマンチックだから、絶対にスクリーンで見た方がいいと思う。90年代の日本人はバブルの恩恵で、有史以来最もキザでナルでクールだったんじゃないか。国立フィルムアーカイブはしばらく改修になって、大ホールでは見られない。残念な限り。
とにかく岸谷五朗がめちゃくちゃいい。自分のなかでは大好き五つ子のお父さんでしかなかったが、佐野史郎ばりの化け物だったと気づく。タクシーの運ちゃんが主役の映画に外れはなく、それはゼロ年代中川家のM1ネタで大衆演劇に結実した。

 

クイーンオブダイヤモンド
…ニナメンケス監督の存在は知らなかったけど既存のジャンル映画を脱構築するオルタナ感覚にびびった。この手触りをソフィアコッポラはずっと出したくてだらだら撮っているのかとも思ったけどどうなんだ

 

編集霊
…鶴田法男の女優霊リスペクトとなれば見るしかなく、久々にシネマートにいったら暇な中年男性半分と推し活動の一環で不慣れな映画館に来ている女子高生半分、後者が上映中もくっちゃべりまくり、このまま中年にボコボコにされたら最高だ、とわくわくしていたが、あまりのくだらなさにだんだん、もっと騒げ、変な爆音でびびらそうとする割にカッスカスにだれている静寂を引きさいてこの場を台無しにしてやれ、と中盤では思い始めているのは私だけではなく、最初はギャハハとJKがローリングするたび睨みをきかせていたみなくっちゃべるのを許容して放置する空気が出来上がってきたのを感じられさながらイケてないJK応援上映という様相を呈していた。美しい光景だった。
なにが特別ひどかったかというと、編集でカットされることを拒んだ女優の霊というあらすじから予想されるとおり、案の定リングのパクリになるのだが、その貞子的女優の死体が見つかってなおリビングデッド的な霊が野放しに暴れ回る、というパープリンな展開、成仏しました的な安易な演出後も怪異が続くし、仮にも90年代ホラーをリスペクトしているならありえないほどに何も考えられていない。死体、霊魂、怪奇現象は三位一体なのであり、整合性をとらなければ何も成立しない、これはホラーとしては異端である。ただ一つ考えられるのは、昨今のB旧映画はゴア描写を過剰に求められる傾向があり、その結果ぼやっとした霊魂では何もとれず、ヌルヌル系の幽霊になるんじゃないかということ。それにしても蛍光灯の下で見るヌルヌル霊はちょっとどうか。今後B級をみるときはできるだけ白熱灯が多そうな映画をみることとしたい。
どれだけできが悪くても視聴環境が悪くても、映画館で上映してくれるだけありがたい。映画くらいしか楽しみがないこっちが悪いのだから…

 

○UNEXTで印象に残ったもの


瓶詰め地獄
夢野久作原作のロマンポルノだけありストーリーがすごい。瓶詰めになるのも控えめで上品。近親相姦モノなんだけど、主役のなんとか小夜子というAV女優のスレ具合が絶妙で素晴らしい。いまのAV女優はAV女優になりたくてるのでみんな似たような感じだし、ちょっと変わった雰囲気があってももれなく陰獣だったりソープあがりだったりするので奥ゆかしさがない。中高生のころはビデオボーイというアダルトDVD紹介雑誌をよく読んでいたが、目当ては月にひとりAV女優の生い立ちを写真をふんだんに交えて紹介するコーナーだった(柚木ティナの幼い頃の写真はかわいすぎてネットミーム化している。おれはリアルタイムで震えた)。それをみてなんとなくわかったのが当時はどヤンキーだったりど貧困だったりする連中の一発逆転のパスとしてAVデビューがあったというこっとで、日活ロマン全盛期はなおさらだったんだと思う。文春文庫のAV女優という分厚いインタビュー集もけっこうエグい不良自慢や不幸自慢が多くてまだ読む価値はあると思う。いまはユーチューバーの身の上話のほうが面白いことが多そう。どのような経緯で業界に飛び込んだのかはわからないが、なんとか小夜子の演技は人柄がにじみ出ていて素晴らしい。

 

クライマッチョ
…グラントリノ以降のイーストウッドはどれも焼き直し気味ではあるけれどWASPの悲哀を演じるには老いたイーストウッドはしっくりきすぎていて、わかっていてもどれもぐっとくる。

 

DOOR
高橋伴明の専業主婦スリラー。ただドアの向こうのセールスマンが怖いヒス気味の主婦をみせるだけの話なのに、ワンテーマの劇伴使いがすごい。気の抜けたタブラにDX7をのせたノッペリしたテーマなんだけど、それが弛緩的な効果を生んでいて、話の滑稽さをしっかり自認するかのようなつくりが逆説的なリアリティを生んでいて、登場人物の狂人ぶりが浮き彫りになる。うますぎる。3作目は黒沢清監督のトビーフーパーっぽさもあるサイコホラーでそっちをさきにみていたので、こっちのシンプルなストーリーには驚いた。シリーズものでテーマも同じなのは本当に良い。

 


平等主義が蔓延る部署に配属になり、リモート勤務が無くなり今年は本当にしんどい。ストレスで古本を買いまくっているが労務管理がしっかりめのため給料はしっかり下がっているのでかなりヤバい。土日のバイトでもしようかな。いらっしゃいませ!これはドリアです!!