ピロリ京介

生きていればいいことはあるというが好きな映画が名画座でかかったり、絶版本の値段が落ち着いてきたりしたときにそれをとみに感じるもので、まんだらけミリオン出版の心霊大全を格安でゲット、付録に心霊音声が再生できるCD-ROMがついているがうちの再生機は壊れていたんだったこれは怪異ですか

 

最近仕事が辛くライトな本ばかり読んでいる

後藤護『黒人音楽全史』…際立った黒人何人かのアンソロジー、著者は精神機関史という気合いの入ったジンを出していたりポパイで連載していたりTwitterでは気合いで洋書を読んでいてイケてる知識人かと思ったがこの本はひどい、前書きで音楽には立ち入らない旨方針立てており嫌な予感はしていたが、バリバリWikipediaトリビアのエディットだった、というか各論はほとんど入手容易なネタ本によるもので各人を通底する黒人とは何者かというイメージについては読者に委ねられる。彼がどのような簡単で人物をチョイスして、どのような星座を結ぼうとしていたかというのは一切明かされない。理論分析までは立ち入らなくとも、ミュージシャンの表象に踏み込むならば演奏や録音テクノロジーは明らかにアティチュードの一部や個性の偏差のはずなのに、それらがほとんどないので片手落ちのまま各章独立したエッセイを読まされる、これはだめだ

安田理央『日本AV全史』…川奈まり子的なオバハンかと思ったら男性だった。彼の本はけっこう気になってけっこう買っていたものの通読は初めてだったがけっこう良い。AV新法までの流れをコンパクトに理解することができるし、雑誌などから各時代のエポックな波をうまく拾っている、いい本だった。最近ぜんぜんみてないからSODはバカなAVを続けてるもんだと思ったらそんなことなかった。いまのモードはエスカレートするど素人シリーズが作ったんだろう。トージローが元気なのは日本の宝だ、彼は蝶野とめっちゃカブるし、武藤敬司が引退際に急遽一戦交えたところをみてなおさらそう思った、これからもがんばれ

瀬川拓郎『アイヌと縄文』…これは面白い。アイヌ研究者の本なんだけどスコープは北海道やアイヌ縄文文化の近しさにとどまらず、弥生文化が起こってから縄文の人たちの暮らしや文化がどのように残って共生したのかということがちょっと言語的な例証多めで辛いがわかる良書。カムイ伝読んでないからわかんないけどアイヌから日本史を捉え直すという試みはいまどきで面白いアプローチなんじゃないかな

 

新文芸坐でダブ映画バビロンを観た。UKレゲエシーンもファッション(コーデュロイ使いにビビる)も忖度なしのリアルで主演も音楽もアスワド。サウンドシステムバトルに向けてクルーが仕事やらビートの調達やらして、というストレートだけどリアルな生活を伝えるあったかい映画だった。自分はレゲエ興味ないなと思っていたが急に思い出したのはけっこうアスワドとリーペリーのCDを実家に持っている、というのも、15歳くらいに深夜ラジオにハマったとき、夜明け前の東京FMがかなりアツかったからだ、もっとも熱心にFMをハシゴしていたのは土曜の夜で、深夜2時からみうらじゅんと安西肇のクソしょうもない番組を聴き(FMなのに下ネタなんでだろうとかセクシーどどいつを長時間コーナーする)、そのあと誰かの地味なレゲエ、あんちゃんのメタル番組、新興宗教の各30分の番組を聴いたら夜が開けてひととおり外見てから寝る、というあれは最高な週末だった。世の中いろんなものがあって、自分は何にハマるんだろうかとわくわくしたもんだが

今は爆笑問題カーボーイしかチェックしていない。これは番組としては停滞しているんだけど、最近になりネタ合わせに関するグチが多くそれがなにより面白い。物分かりの悪い田中にいまさらなダメ出しをする太田と田中の狂人的な言い訳は可愛いやりとりだし、バンドで練習しているときのモヤモヤを解消してくれる快いものでもある

ラジオみたいな受動的な文化はなかなか良いものだし話もプレイリストも消えてしまうからお勉強的になりすぎず、貴重なものだと思う。U-NEXTがradikoを吸収して昔のオールナイト聴けるようになんないかな。電気のオールナイトを聴いてみたい気もするが、従順なファンが痛そうで幻滅しそうでなかなか聴けていない

 

仲の良い友達が海外に移住するらしく日本最後の夜に痛飲、とはいえ大した話もせず、フィッシュマンズが地元に来た時に盗聴したライブテープを世界の民族音楽で上書きした、という話しか覚えていない。日本に幻滅してもついでにおれには幻滅しないでほしい、いつまでも変わらずにいるからな、ピグミー族最高!