ごりんなさいって一言あやまって

米国は完全にバブルの終わりっぽくなってきてひたすらに日足線がロマンチックになっている。正義を共有できない世界において株式会社という制度を盲目的に信じながら利益と損失を繰り返す運命共同体はさながら部活のようでそのルーツが大航海時代にあったことは今だにありありとしている、ゴダールが死んだ日に市場は異様な滝状に盛り下がり反省会の様相さえ漂っており、辛い世の中とはいったいどんなものなのか

 

プラトーノフ著チェヴェングールはロシア革命から10年後に出版されたソヴィエトのあり方を喜劇的に描写する変な本だった。日本語で600頁になっているが最後の2頁のみ動的に結、というテンポにやられた、かっこよすぎる、小説としての完成度の問題で未訳だったところがあるんだろうけど、動作主を間違えても話がすすむところなど、パーソナリティを付与しない群像劇というところは結構今どきっぽくもあり面白い。共産主義というマジックワードで家族や信仰や労働をドンキホーテ調の屁理屈をこきながら魔改造していく架空の街チェヴェングールを描くのは後半で、前半はチェヴェングールにたどり着く前の蒸気機関士科学技術論になっているところがシビれた。

 

流行りの本をいくつか読む

ストレス脳

…書いてあることは普通。スマホ脳ではやったひとでストレスに人類学的にアプローチしつつ、本自体は平易なポジティブ倫理学のマナーになっているところ、自己啓発本かくあるべしというかんじで良い

高橋源一郎/僕らの戦争なんだぜ

…戦争文学のライトな解説、連載だから仕方ないが結論が弱いところがあり、学校の国語の先生みたいに年々なっている気がする、いつまでもワルぶっていてほしい

 

古本もそれなりに当たりがあった。

オフザマップ 世界から隔絶された場所

…いろんな経緯で変な場所になっちゃった名所紹介、Googleマップといっしょに見たら盛り上がれる名著だ、著者の洞察はあんまりだけど、キュレートのセンスはすごくあると思う、こういうのはプレゼントに良い本だと思う

 

フィリップ・ロス/乳房になった男

…100円棚で拾うことにこれ以上意義を感じる小説はないだろう、カフカの変身のおっぱい版、馬鹿馬鹿しくて良い、時代を考えてもフェミ的主題としては先駆だがとにかくバカバカしい。いっそ乳房になったナチ将校くらいが良かった

 

ニルヴァーナは今年完全にホットなものになった。お洒落な店で小音でかかっているという状況にまま遭遇する。カートは子供部屋のフレイバーを纏って地上に出てきた初めてのギター馬鹿だったんだろうと思うが、商売としては消費し尽くされたところで今こうして適当に場違いなくイージーリスニングされているというのはある意味で地下に戻ったということでもあるんだろうな

そのようなお店で90年代を過剰にした風の着こなしをしている少年少女数名がいて、カフェバーで下品に騒ぐところも含め過去への洞察感度が非常に高いのでは、と感動していたが、その後彼らは駅前で手製のトラックでケミストリーみたいな和物っぽい歌を歌っていた、よくわからない時代である…と乳房になった男を携えているような奴にはなんにも思われたくないだろうが

しかしシティポップの完成度が指摘されているがあれは我々でも十分に消化できるWASP向けのAORを参照していたから当然なんであって00年前後のR&B受容は目も当てられないほどひどかった。そのあと清水翔太とか若い人が出てきておおってかんじのフィーリングが出てきてたし向こうのミュージシャンのSNSを参照できたりして今は簡単にバックグラウンドごと理解することができるしみんな耳も肥えるわけなんだ

子供の頃にネットがあったら人生まるで違っていたと思う、これらは全てハズれなのではないか、とうっすら思いながらひたすら近所のブックオフで吟味した本や漫画やCDはなんにも価値はなかったし(岡崎京子は全部100円だった最高!)、YouTubeがあれば高校まで野球を続けるくらいには打撃を究めることもできたのではないかと思う、ていうかいまがいちばん内角を打てる気がする、引きつけて駒のようにバットを出すカープの前田のバッティングはアナログ放送では何にも分からなかった。いまはカットボールの最後の変化や打ち出しの打球の角度までわかるようになったくらいだし、クリアな映像はおもしろい

 

一方ローファイな映像の良さてのは懐古趣味をのぞいたらそこまでないが、ビデオカムの音声には非常に良いものがある、最近YouTubeにアップされたパステルズのライブ映像をよく見るんだけど、テープがびりびりなのと過入力なのとでギターとベースにうっすらファズがかかっているように聴こえてボーカルも中音域が立っていて固く、生のライブ体験に近いかんじがするしそれがライブバンドたるパステルズの魅力を増強させまくっている

そんな思い出みたいな音を出したくて昨日のライブは絞ったファズをかけっぱなしでやってみた、3つくらいしか弦を鳴らせないけれど、テンションをつけたときに色気なくベースくらい強力に雰囲気を変えることができて面白かった、ベースのはなちゃんには別のテンションを当ててもらって、という二人羽織スタイルでやった。やっと自分のスタイルを見つけた気はするがギターは病的に上手くならない

ファズは面白いかもしれない、暴力的なのに残響がないのがめちゃくちゃ良い。ワウやエコーチェンバーもそうだけど、歴史が長いエフェクターほど必然性があり補完的ではない何かの仕事をこなしていると感じる

 

久々に映画、NOPEを観た、Netflix制作くらいのまあまあな出来。後半はUFOを飼い慣らすというテレビゲームみたいだった。それはトップガンを観た時も思ったけど、スパイダーマン多角化展開のインタビューでソニーの偉いさんがゲームも映画も垣根がなくなるという予想をしていて、本当にそうなるんだとしたら困る。監督はゲットアウトやアスを撮っている人でやたらマイノリティを使ってきており、今回も黒人とアジア系とヲタクが頑張るようになっているが、UFOで一発あてよう、という構図はやもするとアフロフューチャリズムそのものでそれは監督がいちばん打ち砕きたい固定観念のひとつなのではないか、というばつの悪さを感じたし、この映画の魅力はメッセージを観ていればこと足りる、あれがなければきっとこの映画の雰囲気は無かっただろう、あれは言語SFという本筋があったけどノープは主題がとっちらかっている。サブキャラを発達障害のレズにした意味も特になく、それらの描写をカットしてゴダールより偉い蓮實大先生のいう90分におさめるべきだろうそれ超えると小便したいんだよ馬鹿、別に出てくる奴らがレズでも発達障害だらけでもいい、ただ前半でフォーカスするとフックだと思ってこっちは観てしまうというのが映画なんでしょうよ、小便のシーンは無かったけれど、だからといって登場人物が小便しない奇特な人達とは観客は思わない、それと同じことだ、こんなあたりまえのバランスもとれない頭の悪い奴が金かかる映画撮ってると思うと不安になる