ペパロニウェスタン

空飛ぶ車はただの大きいドローンだったし戦争はまだ戦車で撃ち合ってる、なんだか未来はなかなか来ませんね、音楽にいたっては依然として大カラオケ大会という有様でこうなったらコーチェラもスナックコーちゃんもあまり差がないんじゃないか

 

スタニスワフ・レムの『地球の平和』がようやく邦訳されたがこれはすごい。泰平ヨンシリーズ3作目でレムの最後のほうの作品。いきなり月から戻ってきた泰平の身体に異変が発生するボディホラーから始まる、なんと人類は軍縮の末に月で代理戦争を始めたらよくわからないミクロな戦争になって、調査員として赴いた泰平は脳の左右をつなぐ脳梁を焼き切られて半身が言うことをきかない…という最高なストーリーなんだけどあとはいつものレムで月兵器の謎を解いたり女を疑ったり信じたりという月曜日のたわわ主人公のモブ男(なによりあの漫画が糾弾されるべきは読者が自分を重ねやすいためになのか男の顔面がネットナンパ師風の重たい前髪で覆われているところだ)さながらになされるがままに右往左往するという、アツいのは後半精神病棟に引きこもるんだけどそのからの二重三重のスパイ工作的やりとりはもう、未来の戦争かくあるべしというような、本当にスリリングで感動モノなんですね、

これはぜひたくさん読まれてほしい、レムの頭の柔らかさとビジョンの頑固さが良い塩梅になっとります

 

ここ2年くらいでやっと視力が落ち着いてきて、同じ眼鏡をかけ続けている。地味かつまあまあ珍しいメタルの変形ラウンドなんだけど、それと寸分違わぬシェイプの眼鏡を最近、顔面がとても素晴らしい蛭田愛梨さんが着用していた。

眼鏡のセンスは10代のほうが確実に良くなっていると思う。

最近うさぎを飼うことになり、戸川がしげひこと名前をつけたその日にメルカリで蓮實重彦の本が2冊売れていた。そんなこともあるもんだ

ウサギといえば先日はドニー・ダーゴを観に新文芸坐へ、これが傑作でタイムリープものでここまで退屈させないものはないと思う。アイデアが素晴らしいだけでなく、音楽と潔癖なまでにシンクしていて快いシーンばかりなんですね(ベイビードライバーというクソ映画はそれだけが売りだった、しかしそのアイデアを成立させるために主人公を音楽好きな運び屋に設定するセンスのなさ、この映画はすべての劇伴を否定するウンコだ)時間が主題だからなのな往年のマスロックの 4拍子に合わせて家庭や学校でたくさんの人物がみこすり半劇場さながらに動いていくなかで、精神病の主人公は自室に飛行機部品が落ちてきてからというものの神様か幻覚としてウサギを見るようになって、という、こんな面白い2001年作があるなんて知らなかった。新文芸坐はありがたい。

いっぽう先日渋谷の某クソ映画館(なんもない坂をひたすら登った先にあるコンクリ打ちっぱなしで小便器が存在しないとこ)に観に行ったアピチャッポンのデビュー作は最悪だった。日本の皆さん向けに本人から冒頭で寒いコメントがあり「僕はどんな作品か忘れてしまったけれど…」なんてエクスキューズするもんだから悪い予感は揃ったところで(先客がウンコしてたからこっちは小便を我慢していたし)、案の定なんですが、コンセプトは素人に物語を紡がせる、というものでもう最悪、しかもその素人は魚売りから代わって最後ただのガキになる。いずれも自分の生活とはなんも関係ない縛りは足の悪い男がいて女が股から卵を産むというだけであとは自由、という、逆差別的発想なくして面白くなる気がしない代物だった。開始5分で戸川は寝たのは正解だった。おれも寝たかった、尿意さえなければ。

こんな拷問に2000円をとる神経が許せないし戸川以外のイビキが起きなかったのもありえないことだ。苛立ちがただ募る。

「インフル病みのペドロフ」もまあまあ辛かった。現代ロシアのアイデンティティが複層的になっているのを示すのは面白かったけどそれでも2時間半は辛い…

 

その他新作映画情報

ポゼッサー…たぶんクローネンバーグの息子の映画。マトリックス的なマシンで他人に寄生する殺し屋オババの苦悩。いちいち殺すにも死ぬにも理由がしっかりあり、とても誠実なひとなんだとおもった、18禁なのに無駄や不条理がゼロ。SFの妙味もそれなり、やはりマトリックス的なマシンを扱う近作ではレミニセンスがベストだろうという思いを強くした

チタン…こっちのほうがクローネンバーグ節というか、フランスのスリラーはやっぱり怖い。幼い頃に交通事故でチタンプレートを埋め込まれてから車に取り憑かれるっていうバラードのクラッシュを人体方面にサスペンドして上書きしている。フライ2っぽい展開もありますますクローネンバーグぽいなとますます思う

パリ13区…アジア系移民とアルジェリア人と生真面目ボルドー民とそいつに顔面が瓜二つのチャットレディの恋愛模様。18禁。今の恋愛の仕方っぽさが結構リアルだったけれど非常にご都合主義な話のラインだった。18禁ほど無個性になるのはなんなんだろうかと最近思う。初めて無理して大人料金で鑑賞したのがバトルロワイヤルだったので(山本太郎はこの頃すでに胡散臭い)、妙にブランドめいたものを18禁には感じてしまう。キリングミーソフトリーも思い出

 

リチャード・パワーズの黄金虫変奏曲が邦訳されて即読み始めている。ニ段組800ページくらいある体裁からわかるように毎度彼は芸術論やらなにかパースペクティブを明確に分離して提示しながら物語を進めるからそれはもうヴァリエーション「全て」ということになる。今回はバッハのゴルドベルグをDNA転写に重ね理解した落ち目の博士が主人公。箱庭を作って全部こういった芸風は発送自体は捻りはないがなかなかできるものではなく、息長く執筆を一貫して続けてくれていて本当にありがたい。

90年代の邦画「死んでもいい」には似たような雰囲気を感じた。誰が何のためになぜ死んでもいいのか、三角関係の前通りを示しつくして、圧巻のラスト、三文芝居で狂人らしさマシマシの永瀬正敏大竹しのぶが放つ「落ち着いたら、毎日が一緒よ」という一言が幾重にも意味を持つ仕掛けになっており、鳥肌立ちまくった

 

初めてギターをかついで下北で練習したり新幹線に乗ったりして恥ずかしかった。ギターという楽器をとりまくカルチャーはとても大きく、恥ずかしい、その初心を忘れないようにしたい。ストロークのニュアンスとセーハしたときのテンションの制約には、どの楽器よりも便利な点がある

 

毎日が一緒で落ち着いている