尾崎ラウンド半

ひとつの道を極めた人間は物事のコツみたいなものを広範に掴んでおり世相を読んだり人間の心を察するくらいは容易い、というのはプロレスラーが政治家になったり絵描きが古代や沖縄に惹かれたりサッカー選手が社外取締役として重宝されていることから想像がつく。とはいえそれはシンお岩さんこと一流商業ミュージシャン山下達郎にはあてはまらない、というのはやはりこの国の商業音楽が未だに舶来文化の域を出ていないことに起因するのではないかと思う。特に彼がやっているのは我々がうまく咀嚼できなかった部分を完全に再現してそこに和風のフレイバーを溶けこましている(宇多田ヒカルはそんな位置付けとされているが全然違う、彼女のメロは念仏のようで浮いている。クリスタルケイのほうがすごいんじゃないかという瞬間はある)、いわゆるタイムマシン経営のような手法でそれを標榜する孫正義は大志はあれど(坂本龍馬に心酔する人間は皆危ない、武田鉄矢は大河のセット裏でカツカイシューの格好で福山雅治に龍馬の心得を説いていたらしい、好意からだとしてぜんぜん死なないしやっかいだ)徳はなし、みたいな人なんだなと思う次第

 

練馬ブックオフに大量にVシネ関連本が落ちており相川翔『百本締め』がとても良かった。激安だから一家に一冊あってもいいと思う。ゴーストライター抜きで彼の語りがそのまま文字起こしされグラビア(大半がタバコ持ってありえないDCスーツでひたすらスカしている)とともに配置された雰囲気が最高なんだけど何よりヤバいのが巻頭グラビアが記念すべき主演100本目のゼブラーマンであるところで、こんなヘボい役の宣伝を兼ねて過去を顧みてスカしまくるこの無神経さがまさに彼の魅力なんだろう、特に低予算で発揮される一本調子な芝居は不思議と曖昧な余韻を残してカメレオンのような存在なんだよね。隣人リカコやカブトムシの話は抜きで

 

ペレーヴィン『眠れ』はロシアのマインドががいかに現代から取り残されてるかっていう告発っぽく響いた短編群、西洋の尺度では多分彼らはアホでしかないんだけれど、まあそんな理屈も大事だなと思うし、地理的にもよほど彼らのほうが隣人なんだろう。サイバーパンクっぽい売り込みなのにひとつめの主人公は自転車倉庫っていうのがすごい

 

いまはゴア・ヴィダル『大預言者カルキ』を読んでいるが訳がひどくて進まない。元飛行機乗りの落ち目の女史が書き手ということなのでカルキの言葉とコントラストをつけたくて過剰になのかもしれないけれどサンリオクオリティというかなんというか

 

宅録してて全然音楽聴いてなかったけれどそれゆえにたまたま良い瞬間はあった。5年ぶりくらいに車を運転したらスティーリー・ダンが流れてぶちあがり、その後に日本語の曲が百式かなと思ったらくるりの新曲だった、素直になったのか金に困ったのか、トンネルで消えたりついたりしたから余計響いたのかもしれない

 

壊れたJUNOは壊れてないJUNOを挟んだらバグった挙動のままでまだ音は出ることが判明。明日広島のライブに持っていく。シンセは壊れかけがいちばん良いからな