ビートルズがやややってくるや

岩波ホールが潰れる。それを惜しむ声が続々と、まだ寝足りないというのか?かくして神保町から最上級の眠りを提供するホテルは高齢化の煽りをくった硬直性のなかで風営的感覚の波をくらって無くなったんであった。ていうか岩波カルチャーはとっくに終わってるのは出版事業からも自明だろう。頭でっかちの微妙なサヨクのカタログみたいになってるし、こうなると岩波文庫の赤版ナナメ読みがジャストでアツい。次の騎士道文学ブーム、ラテンアメリカブームまで本屋の片隅で静かに眠っててください…あと動物モノが面白い、科学ライブラリーもかわいいのだ…

 

他の名画座は気負いしない企画が増えて面白くなってる気がする。早稲田松竹のケリーライカート特集は4本どれもストーリーの切り取り方が抜群で彼女のアンチマチズモ、アンチ感動ポルノっつうDIY精神がビンビンにおっ勃っていた。かといって決してフェミではないだろう。若い客が多く30分の休憩中所在なさげにジェンダー関連の本を開くたちんぼ系男子が多かったように思うが。どんな文脈であれ上映してくれるのはありがたい…

特にオールドジョイがすごかった。若いときツルんでた男2人が大人になっていろいろ変わった身でキャンプに繰り出してマウントをとりまくる話、淡々と哀しすぎる

西海岸貧困層グランジミュージックの親和性を強く感じられたのも収穫。こっちも金もなければ身体も元気がなく、ダラダラした音楽を続けていきたいと思う。海辺のニューゴリラは今年もいいライブをたくさんしたい

 

年末くらいは最近の日本人の小説でも読むか、と思って町谷良平「ほんのこども」を読んだ。帯に そして世界文学へ と書いてあるのが保険になったから、なんて思ったら昭和私小説ノリがヤバくて、偶然再会した小学校の同級生の半グレから文体を奪ってしまいったことの懺悔、そのことを小説にする自分の悩み、フィクションにおける現実らしさ、一人称小説への違和感、など、月並みの苦痛で仕方なさ。自分と半グレがだんだん溶けていくラストこそ読み応えは(それこそ純粋に文体として)あったけれど、あべくんの不気味で不正確な文体こそ彼に営業を与えてきた境遇や社会からの影響だろうに、そこへは思いを馳せずにやたら窮屈なフィクションだった。疲れたな…

 

いっぽうシャラポア野口絶賛の保刈実「ラディカルオーラルヒストリー」は面白い。ケネディが来豪した、など、史実では正確ではないアボリジニのオーラルヒストリーの歴史学的意味、ほかの歴史学のマナーとどのように折り合いをつけるか、耳を傾けるべき理由が著者が末期癌のなかだったこともありアツく論じられる、これはすごい。物語るという行為の政治性は人間の根幹にあるんであって、そこは開き直っていいだろう、文体なんて大したもんではないんだよ

 

年末まとめ書評でかなり話題になった川本直「ジュリアンバトラー真実の生涯」は翻訳書のテイのデビュー作。言葉が完全にコントロールされている架空の20世紀文壇スキャンダル、めちゃくちゃ面白い。ドカベンプロ野球編モノのときめきをくれている。サンキュー!

 

水島新司の顔写真を見るたびに他人ではない気がしてソワソワする