与沢翼は札束みたいな恋をするか

4月に仕事が暇になる夢は潰え、また2年くらい忙しくなることが発覚。自分のストレス耐性が嫌になる。余暇時間と引き換えに残業代を得て、雑な消費快楽や不注意から生じる浪費に費やされていくことを眺める単純な2年間になりそう。まあ人生というのは案外そういう見通せた期間の連続なのかもしれない

 

最近の映画情報

「超擬態人間」…逆輸入スプラッタSci-Fiホラー。怖いし雰囲気がある。風刺的なメッセージもあり、すごく面白かった。映像と同期して音でびびらせるのはよくないが、その手の割にドローンがめちゃくちゃ良かった。なんかのベーシストらしい

「BLISS」…未体験ゾーンの映画たち、今年はこれしか見ていない。ラリって一生懸命絵を描くNY在住の話。アートシーンと音楽の文化的接続とか社交の雰囲気がリアルな感じがしておもしろかった。ドゥームっぽいロックバンドがたくさん出る。適当にサントラを買ったらそれらの曲は入ってなかった。

メイヘムの話…このタイミングでの公開はブラックメタルの流行を予見させる。恋するフォーチュンクッキーを聞いた瞬間から思っていることだけれど、コンテンツ自体はインドネシアの5年前の流行が日本の来年の流行。最初から終わりまで緊張のブラフと狂人の嫉妬関係。執拗な刃物の登場は昼間にみるものではなくあてられた…

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」…文化庁助成の9時5時で戦争する村同士の話。のんびりしていて良かった。登場人物全員白痴、わざとのんびりしたテンポの心ここにあらずというコミュニケーションで繰り返される会話のリズムのせいか楽隊のマーチがただただ映える。マクロからミクロまで動かす人の憎悪はそれぞれの心の根底にあるために戦争はなくならない、という映画を税金で撮る意味とは母さん日本は平和です…黒沢清のカリスマを思い出すかんじ

ペドロ・コスタ諸作…これこそ退屈と紙一重の魅力。オールナイトは拷問だったが面白かった

「セ/ノーテ」…本当にクソ映画だ、映画になっていないだけならまだしも植民地主義的発想が垣間見れてもうどうしようもない。これまでの人生でいちばんつまらない映画で驚いた。そのあとの愚痴で盛り上がれたから金を返せとは思わないが

 

最近の書籍情報

エドゥアルド・ガレアーノ「日々の子どもたち:あるいは366篇の世界史」…今日は何の日、を古代から311に至るまで書き綴った最近のラテンアメリカ小説。年末の群像いろんな人のベスト3でやたらあがっていた。そこまで面白くはないが、確かに序盤から妙味は全開で、それゆえに選ばれたところがあるんじゃないか。もしかしたらみんな長編を読む時間がないんだと思う。年3冊もゆっくり読めない可哀そうな人たち。ラテンアメリカ知識人の先住民への温かいまなざしを感じるポストコロニアルな世界史うんちく本だと思えば、まあいいかという感じ。

サラ金の歴史」(中公新書)…ばつぐんに面白かった。参考文献が政府統計からナックルズ的な駄本まで膨大で先駆者としての気概を感じる。よく整理されていて面白かった。アイフルはノンバンク系の残党として応援したい。小金をつまめるパスは用意してあったほうがいい。ちょっとの金さえあれば脱出することができるピンチもある。ネットで情報ぬきまくってAIで信用が測ることができるようになってきているし、利息はばらばらで個性豊かな金融サービスがこれから出てくるんじゃないか。ラインポケットマネーは借りる時の罪悪感が全然ない。それはそれで問題だと思うけど、「ラインにこにこ融資」じゃやっぱ借りたくないな。それにしてもウシジマくんの貢献はすごいものがあると思う。ハウツーかつ道徳の教科書だと思った。新宿租界のイメージ戦略はけっこうウシジマくんの世界をトレースしていると思う。炊き出しはえらい。がんばれ。

炊き出しといえば、可能性が余りあるネット世論の形成において、我々非資本家階級は窮地に立たされていると思うことが多い。草の根的に広がっているのはこども食堂、入管など。それ自体確かに良くないことなんだろうけど、そればかりに執着して気をすり減らすのは為政者からすればそのムーブメントはなんのダメージもなく、じっくり改善して時間を奪える好機であることに注意すべきだ。安倍政権が続いたのは彼の天然のわきの甘さがしょうもない追及を招き、国民とへぼ野党の「時間」を奪うことに結果的に成功したからであって、人徳のレベルだったと思う。マリオになれるし。

我々には時間しかないのに、デジタル社会の経済モデルではしばしばその時間さえも切り売りされ始めてまさに悪夢だ。

「日本の包茎」澁谷知美…先駆的な研究なのはわかるけど、大部分を占めるのが雑誌のタイアップ広告の言説の分析でくだらない。副題は200年史とあるけれど、これではタイアップ広告なんだから広告史だ。もっと性についての国のアンケート結果とか、男性器の機能についての医学的知見の変遷にも気を配るべきだったと思う。それゆえにフェミニストとしての立場からの提言はわずか10ページで上滑り感があった。本人は面白いところはあるけれど武/田砂/鉄の帯文は信用してはいけないと気付く。

「旅の終わりの音楽」エリック・フォスネス・ハンセン…これは当たりだった。タイタニック号で沈没直前まで演奏していた軽音楽のバンドメンバーがどういう人生を歩んでその船に乗り合わせたかという長編。沈没は1912年なので第一次大戦とほぼ近く、テーマも19世紀と20世紀の断絶に翻弄された人たちの喪失とわずかな気づきのような幸福という、カズオイシグロ「日々の名残」やパワーズ「ー農夫」が取り上げた話と近いものがあるんだけど、個々の問題のバランスがよく(貴族階級と世襲制度の消滅、イギリス帝国の残滓、ユダヤの世俗化、印象主義の勃興にともなうロマン派音楽の陳腐化という過去に引きずられて楽師になる人たち)、けれどそれだけではなくて後半は思春期の失恋と音楽の神性という普遍的な気づきを得たメンバーが出てきて、という構成が素晴らしい。これは本当に良い話。大戦と違って最後沈んで無に帰すというところがはかなげで良いし。

 

そんなかんじ